トラップ日和、発明晴れ。

norure096様に桂野澪を描いていただきました!
可愛く跳ねてます!彼女の好奇心が弾けてます!


「ツェッピ、重力制御準備オッケー?」
「まだ半分デス! 地面が泣いてマス!」
「泣いてるうちに笑わせよう! ほら、いくよっ!」

「ツェッピ! 起動テストいくよー!」

 澪の工房は今日も光と音で賑やかだ。
 回転する歯車、跳ねるスパーク、そして彼女の笑い声。工具を片手に走り回るその姿は、まるで幼稚園児のようだった。

 天井から光が伸び、翼をもつ小さな飛行船――ツェッペリンがフワフワと浮かぶ。

 「ミオ、また罠を作るノカ? 昨日の《自動歓迎トラップ》で隣のカフェの客が全員拍手シタ」
 「ね、すごいでしょ! 『喝采カフェ』って名前に変わったんだって!」
 「……事故が文化にナッタノカ?」

 ツェッペリンはため息をつきながらも、どこか誇らしげに見えた。

    ◇ ◇ ◇

 今回のテーマは《無害型捕獲装置》。
 澪が考えたのは――侵入者を「褒めて捕まえる罠」だった。トリップワイヤを踏むと、ドローンが飛び出し、音声AIが朗らかに叫ぶ。

 「あなたの足運び、すばらしいです!」
 「侵入レベルS! センス抜群!」

 その声に驚いて立ち止まると、風船がふわりと舞い上がり、侵入者を包み込む。中には安全なナノフォーム。ケガひとつない。

 ツェッペリンが感心したようにうなる。

 「……これは、笑顔で治安を守ル装置ダナ」
 「でしょ! 世の中、もっと楽しく守らなきゃ!」  

 ということで、実験は大成功!――のはずだった。

 「あなたの歩幅、美しい!」
 「天才的なスニーカーセンス!」
 「最高の侵入をありがとう!」

 工房中が拍手と笑い声で満ちる。
 ツェッペリンが配線を抜いても、どこかから「ブラボー!」の声が聞こえる。澪は照れくさそうに頬をかいた。

 「うーん、ちょっと褒めすぎたかな……でも、これもデータだね!」
 「ミオ、寝る前に罠を仕込むノは禁止ダ」
 「じゃあ、朝起きてから仕込むね!」
 「……ミオ、話が通じナイ」

    ◇ ◇ ◇

 夕焼け。工房の窓を赤い光が染める。
 澪は工具を肩にかけ、外を見ながらぽつりと言った。

 「ねぇツェッピ。発明って、退屈をやっつける方法なんだよ」
 「退屈ハ、トラップにハマラナイ」
 「だからこそ挑みがいがあるの! ツェッピはわかってないなぁ」

 風が吹き、髪の間でネジがきらりと光る。
 澪の視線の先、ホログラムの設計図にはこう書かれていた。

 《重力反転トラップ》

 ツェッペリンがわずかに身を引く。

 「……ミオ、ソレ、街が逆立チマスヨ」
 「想像するだけでワクワクしない?」

 ツェッペリンはため息をつき、小さく笑った。
 未来は、彼女の発明で少しだけ賑やかになる。