タイ寿様一色輪音を描いていただきました!
カッコよくて美しい!迫力と美麗さが彼女の一生を彩ります!
「雑魚はひっこんでろっつーの!」

輪音は目を開ける。
夜の気配がまだ部屋の隅に残っている。カーテン越しの光は淡く、気象制御塔が空気をゆっくり温めている時間だった。
布団から抜け出し、素足で床に立つと、古木のフローリングがわずかに軋んだ。
「いい音してる」
誰もいない部屋に話しかけるようにつぶやき、キッチンへ向かう。
ポットに水を入れると、センサーが自動で加熱を始めた。泡の立ち上がる速度が少しだけ昨日より速い。
気圧の変化か、あるいは自分の体調か――そんな違いを、輪音は音で測る。
音が意識に馴染んでいくと、心が落ち着く。
心が落ち着くと音があっても静かになる。広すぎる家での一人暮らしは、圧倒的に静かだ。ほんの小さな音が愛おしくなる。
カウンターの端に、大正琴が置かれている。祖先から受け継いだものだ。手を合わせるのは朝のルーティンだ。弾くたびに、弦の響きがインプラントでデータ化され、空間の共鳴パターンとして保存される。
「おはようございます」
輪音は、指先で一弦を軽く爪弾いた。
澄んだ音が部屋を満たす。脳内スクリーンにデジタル表示の波形が静かに揺れ、それがまるで呼吸のように緩やかに上下した。
音はやがて消え、余韻だけが残る。輪音はその間を聴くのが好きだった。音の終わりには、いつも静かな始まりがある。
ポットの音が合図のように鳴いた。湯を注ぐと、カップの中で立つ細い音が朝の空気を震わせる。輪音は、カップを持ったまま琴の前に戻る。
「今日も、変わらない朝」
そう呟くと、再び一弦を弾いた。
音は薄く広がり、風に混ざっていった。
未来も、音でできている――
今日の朝もそう思えた。彼女は少しだけ嬉しくなった。

