夢の手紙

天日昇様に描いていただいた明智火珠です!
威風堂々、委員長として新人類リーダーとして前進あるのみ。カッコいい!


「ひねり潰す! 後に続け!」

 机の上に、一通の手紙が置かれている。白い封筒。差出人の名はない。

 この時代に手紙なんて。これはきっと夢だろう。そういえば前に同じ夢を見たかもしれない。封を開けると淡く桔梗の文様が入った便箋に、文字が並んでいた。

 火珠は指先で紙の縁をなぞった。わずかにざらついている。繊維の手触りがあった。

 声に出さずに唇で繰り返す。火珠は那由他系新人類の中でも特殊な存在だ。火珠の見る夢もまた特殊である。それを火珠も自覚している。

 魂レイヤーを通じた、過去宇宙の私からの手紙。

 夢の中の空気が少しだけ変わる。まるで静寂そのものが息をひそめたように。火珠は目を細めた。

 ──「東」。

 最後の一文字だけが、微かに光っている。

 気づけば部屋の壁が透け、視界の向こうに淡い朝焼けが広がっていた。夢の中のはずなのに、朝が近いことがわかる。火珠は立ち上がり、東へ歩いた。

 いつのまにか足元には水がある。透明な床に映るように、微かな波が広がる。天井からは雨の音。手紙にあった言葉が、現実になっていく。

 「朝」「雨」「灯」──順番に世界が組み立てられる。

 手紙に綴られた言葉が、この一夜の夢地図を作っている。

 歩みを進めると、遠くに灯が見えた。雨の向こうにひとつの灯。そこに近づていくにつれ、世界が裏返っていく。

 机の上。手紙は消えていた。かわりに小さな水滴が一つ、便箋の跡の上に残っている。火珠は息を吐いた。夢の中で読んだ言葉が、頭の中でゆっくりと並び直っていく。意図はわからない。だが不思議と、悲しいほどに美しい言葉だと思った。

 彼女は指先を見つめた。夢の中で拾った水滴の残像で濡れている。

 ──夢の手紙を受信──ライブラリに追加──解釈は総合的に続ける。

 謎は深まるばかりだが、敵は待ってくれない。

 「さあ。切り替えよう……出撃だ!」