なっつ様に描いていただいた一ノ矢常盤です!
厳しくて優しい。頼れる姐さんはハーフバンパイア。
「酒でオレに勝てたら惚れてもいいぞ」

訓練場の照明が一段ずつ落ちていった。喧騒が遠のき、金属の床が夜の温度を帯びる。闇の中で一ノ矢常盤は無言で中央のプラットフォームに立ち、腕を組んだ。
「今日の訓練は、“共感狙撃”だ」
常盤の声に、十数名の訓練生が姿勢を正す。彼らの中には人間もいれば、半機体もいた。目の前に並ぶターゲットは、人型を模した無機の存在。だが今夜、それは“意識”を持つ。
「狙う前に、感じろ。目じゃなく、心で視ろ」
訓練生たちは神経接続端子を装着し、静かに目を閉じた。装置が低く唸り、光が走る。彼らの意識はターゲットと結ばれ、脈拍や思考が流れ込む。
「……なんだこれ?……怖い」
誰かが息をのむ。ターゲットの恐怖が、直接、心に触れる。それは単なるプログラムではない。かつて実際に戦場で死んだ人間の記録を、感情として再現している。
「拒絶するな」常盤の声が響く。「相手の恐怖を受け止めて、正しく引き金を引く。それが共感狙撃だ」
訓練生の呼吸が乱れ、額に汗が浮かぶ。リンクを深めるほど、彼らの心とターゲットの境界は曖昧になっていく。恐怖、怒り、後悔――そして、わずかな祈り。
「命を撃つってことは、世界を変えるってことだ。だからこそ、撃つ資格を得る必要がある」
常盤はひとりの訓練生に近づいた。青年の頬は青ざめ、唇が震えている。
「……教官。無理です。心が……混ざります」
「混ざっていい。撃つ前に、迷え」
彼女は青年の肩に手を置き、短く息を吐いた。「迷えないやつが引き金を引くと、世界が壊れる」
しばらく沈黙が続いた。リンクの光が徐々に弱まり、ターゲットの意識が薄れていく。訓練生たちは一斉に装置を外し、息を整えた。
「さあ……どうだ?」
誰も答えない。沈黙こそが答えだった。
常盤はゆっくりとターゲットの方を向いた。無機の人影が、まるで安らかに眠るように静止している。その姿を見つめながら、彼女はぽつりと言った。
「感じ取った相手を、撃てないと思ったなら、それでいい」
訓練生たちの顔に、安堵とも戸惑いともつかない表情が広がった。常盤は笑った。
「戦場に立つとき、感情を切り離せって教える連中がいる。だけどね、切り離すってことは、自分を危険に晒すってことだ。死の淵に立った相手も、お前の命を狙っている。感じることをやめたら、生きて帰れない」
彼女はターゲットの影に近づき、指先でそっと頬をなぞる。冷たい金属の感触。だが、その奥には確かに、誰かの想いがあった。
「私が教えたいのは、狙う技術じゃない。獲物と共感する強さだ」
常盤は振り返り、全員を見渡した。「撃てなかったことを恥じるな。それが、お前たちの第一歩だ」
静寂。遠くの風が砂を撫で、夜気がわずかに冷たく、心地よい。腰の瓢箪を手に取り、一口だけ飲む。
「ふぅ……生きてる味だ」
誰も笑わなかったが、どこか空気が和らいだ。
「さぁて、飲みいくぞ! おまえら覚悟しろ!」

